ぼくが生まれたのは港町
空までそびえたつビルヂィングの不動と
どこまでも広がって揺れ動く海の碧の間に
かもめ君たちの元気な声と色んな種類の静寂との間に
ぼくは生まれた
たくさんの路地の向こう側に続く冒険と
一歩踏み出す勇気
少し曲がったしっぽの先の不安定さと
そして包み込む母さんのぬくもりの記憶に
ぼくは目を閉じて
まぁるくなる
1歳半の時に里子に出て、ぼくはあいつの家に来た
バッグに入れられて
親しみのある人たちの手から離れて
見知らぬ人の手に渡る
新しい家に着くと、あいつは指示を受けて
そそくさとぼくに水を差し出した
それがあまりにも大きすぎる鉢だったから
みんなが笑った
あいつは照れた顔をしてぼくを見ていた
それから35日間、ぼくは口を利いてやらなかった
でも勘違いしないでほしいのは
口を利かなかったのは怒っていたからだけじゃない
もちろん腹立たしかったし
悲しくて不安だったけど
ぼくは赤ちゃんじゃないし
お兄ちゃんやお姉ちゃんも
こういった経験をしていたから分かっていた
ぼくが黙りこくなっていたのは
家や家族から離れたり
それら足元の土台が不安定な状態になって
ぼくは深く考えるようになっていたからだ
ぼくっていったい何者なんだろうと
こうしてぼくはぼくの内側に降りていく
それからしばらくの間は
新しい家の開拓と
この内側に巣くう謎の解明の為に
ぼくは真夜中にうろうろと歩きまわった