Blanc Noir Cinnamon

すべての猫好きのためのちょっと不思議な猫ブログ

たろとみつのはなし 1

 

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夜が深まると

わたしたちが暮らす駐車場は

ざわざわと騒がしくなる

わたしは子どもたちと待っていた

雨の日も風の日もいつも同じ場所にある

白い大きな車の下で

ここがいつものわたしたちの場所

離れて暮らす成長した息子や

近所の森に住む仲間たちもこの時刻になると

丘の上にある病院の

だだっ広いこの駐車場に

ひたひたと集まってくる

まるで月の光からのびる糸に操られた

マリオネットのように

わたしたち自身とは別の

何か大きな意志に導かれるように

今日もこの場所に集まってきた

あるものは駐車場の真ん中にじっと佇んで

丸い背中の影が月の光に長く延びて

またあるものは生垣に寝ころんで

虫の鳴き声に耳を澄ましている

夜が深まって

人が一人また一人帰途につくと

今度は小さいものたちが

こそこそと世界を動かすのだ

そんな風におのおのが時間を過ごす中

やがて駐車場の入り口の方から

ギィギィいう音が近づいてきた

生垣の猫が起き上がり

どこかに隠れていた他の猫たちも

ひょっこり出てきて

月の光に伸びた背中の影が

幾本も地面に重なった

そして蛍のように揺れながら

きしむ音をギィコギィコ響かせて

自転車に乗ったおじさんが到着した

さあ、ご飯の時間だ

みんなが動きだす

宴会だ 宴だと

一日を生き延びたお祝いだ

明日を迎える喜びだ

子どもたちが飛び出そうとした

ダメよ

ママの後ろにくっついてなさい

しばらくしてこの優しいおじさんが

満足そうな顔をして去っていくまでは

わたしの役目は

見守ること

この子たちが強く逞しく育つまで

ご覧なさい

あそこの草陰を

意地悪いタヌキが狙っている

子どもたち

よくお聞きなさい

いつも同じことを繰り返しなさい

いつも同じ道を歩きなさい

あのお月さまのようにね

それが生きるのに大切なこと

おじさんが帰っていった

さあさあ子どもたち

たくさんたくさんお食べなさい

そして寒い冬が来る前に

早く大きくなりなさい

 

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